建築から学ぶこと

2015/11/04

No. 497

都市の課題は世界の課題でもある

どのように都市にある課題を克服してゆくか。過日、ハイデルベルク市(ドイツ)が主催した会議(HCIの大会*)に参加して、いくつかの貴重な情報と知見を得た。多様な共生が可能な社会づくり、経済の活性化、環境や文化の問題など、さまざまな課題はどの都市も等しく向きあうものである。それを実際に各国の人々と膝詰めで語りあうとなかなか面白い。結論が出るものではないが、共有はできる。市はもともと、議論や対話の花が咲く3日間を、やわらかなネットワークの土壌を耕すために設営した。というわけで、様々な立場の人々の結び目に絶えずいたのは、この市のビュルツナー市長自身であった。

スマートシティのありかたの議論を提起したのは英国(行政)だが、彼らとドイツは政治システムがやや異なっている。ドイツには第二次大戦を踏まえた憲法によって多くの権限が地方自治体に与えられているので、都市改革の実現プロセスが違うことになる。中国(投資家)は金融の手法を使いながら、両国の文化・伝統の相乗効果を試みる提案をする。現役世代のグローバルな人的ネットワークを、次世代が自らの可能性を拡げる契機として使うのは効果的で、米国はそこを意識的に取り組んできた。いずれも興味深い。私は「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」について解説しながら、市民のシビックプライドが育てば、それが都市の活力の中枢となるだろうという話をした。それぞれは自国政府の代弁者で発言しているわけではないが、人の力に期待する様々な視点を加えることで都市政策は内容豊かになるはずだと感じた。

さてこの秋、多くのシリア難民がドイツに流入し、一時的な住まいとして、撤退した米軍住宅が割り当てられたりした(ハイデルベルクもその例に当たる)。ただ、急な受け入れ策だとは言え、収容キャンプは忌まわしい歴史的な過去を想起させてしまうので、定着場所としてはよろしくない。また、要らぬ余所者差別が起こしては元来た道に戻ってしまうので、政治問題として扱いが微妙な中でドイツは大いに試されているようだ。この現実も、多様性、高齢社会やバリアフリーといった諸テーマの根っ子にある、基本的人権の確保と拡張の問題が大事なのだということを伝えてくれる。

佐野吉彦

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