建築から学ぶこと

BADIOLAは、イタリアワインの名産地トスカーナにあってひときわ歴史の古いワイナリー。オーナーであるマッツェイ家がカステッロ・ディ・フォンテルートリを取得したのが1435年で、現在の当主で24代目なのだそうである。いい感じの軽さが残る彩のある赤だ。私がずっと運営を続けているコンサートシリーズ＜平河町ミュージックス＞では、演奏後に音楽にちなんだワインを提供しているのだが、第26回（4月25日）にスティーブ・ライヒの「ニューヨーク・カウンターポイント」を熱演した加藤訓子さん（パーカッション）ではBADIOLAを取りあわせた（ファインズの森本さんのお薦め）。

このマッツェイ家にフィリィッポ・マッツェイ（1730-1816）という人がいる。彼はアメリカの建国の父のひとりトーマス・ジェファーソン（第3代大統領､1743-1826）の親友となり、知恵袋として重用されることになった。マッツェイはジェファーソンに独立戦争のための武器を用立てたり、国づくりのための思想やワイン醸造の知識をも伝えたりしたのだという。博識にして見事な商人である。

ジェファーソンは国家のかたちを具体的に構想した人で、教育の礎としてのヴァージニア大学の建築計画や首都ワシントンDCの都市構築（1790-91）のリーダーシップを執るなどした。DCはフランス人ピエール・ランファン（1754-1825）による都市計画で、パリを想わせる斜めに走るアヴェニューが特徴的である（当地のランファンプラザに名が残る）。新しい首都の竣工式はフランスワインか、新しい国のワインで祝ったのかどちらだろう。

やがて、DCを舞台にしてアメリカは大国を目指し、西進して到達したカリフォルニアが東海岸を上回る高品質ワインの産地になった。ヨーロッパの種は優れた人々の手で豊かな実りをもたらしたのである。