2020/11/18
No. 746
今度入部する後輩は瑞穂の出身だからね、と聞かされても、その力量がわからなかったが、さすがに安定した金管の腕前を持っていた。たしか、彼は瑞穂青少年吹奏楽団に属していたのではなかろうか。40年以上前、大学オケのメンバーの私は習いたての弦楽奏者だったが、木管・金管にはそうしたブラスバンド出身の猛者がいた。そうしたプレイヤーがいたからワーグナーやブルックナーを演奏する機会を得ることができた。東京都の西部の瑞穂町とその南の福生市には、米軍と日本の航空自衛隊が配備された横田基地があることも関係しているのか、このエリアには良質のブラスバンドや切れの良いミュージシャンが育つ土壌がある。創立50周年を迎える瑞穂青少年吹奏楽団も、実際に米軍の音楽隊と一緒に演奏する機会を持ってきた。今年瑞穂町は新たな庁舎が竣工して町政80周年を迎えたが、本来なら式典にはそうした音楽の伝統を披露する場が設けられたに違いない。
1940年に町村合併して誕生した瑞穂町は、当時の岡田東京府知事の命名によるという。その年に横田基地の前身の多摩陸軍飛行場ができているから、時代のメッセージ(瑞穂の国)を宿していると言えるかもしれない。さて、羽村を含めたこのエリアは東京の郊外であり、自然との距離が近いところは同じでも、多摩ニュータウンのある丘陵地とは何となく空気の違いがある。広い道路グリッドにゆったりと建てられた住宅は連続的町並みを構成してはいない。どこか、都心とは日常的につながっておりません、という顔をしていて、札幌の郊外のような「新しい土地」を想わせる。補足して言えば、横田基地はほぼ全域が国有地であり、国境からも遠いので、今は特に緊張をはらんだ状況にはない。離発着する航空機以外は、瑞穂の東に広がる狭山丘陵からすっくりと陽が昇り、奥多摩の山並みにゆっくりと落ちてゆくのどかな日常である。