建築から学ぶこと

2007/06/06

No. 85

必須科目に、名教師。

世界的ヴァイオリニストの五嶋みどりさんは、厳しい教師でもある。自宅でレッスンをしていて「もどかしい状況」に陥ると、すうっと席を立ち、料理をつくりにゆく。これは時間がかかりそうだ、というわけである。格闘している教え子は、良い匂いどころではないだろう。このエピソードからは、みどりさんが、目標を達成するためのひとまとまりの時間の確保の必要だけでなく、しっかりとした身体の支えの必要や、ともに食事をしながらコミュニケーションをとることの必要を感じているようすが伝わってくる。

ものごとを習得するために欠かせないのは総合的なアプローチであるが、個々の大事な科目を組みあわせることができるところは、一流の教師と言える。しかも、組みあわせかたに個性がある。みどりさんは、日本初演の現代曲が並ぶリサイタル(2005年)に先立ち、チケットを買った人にガイダンス用CDを配布し、予習を奨め(促し)ていた。距離を縮める工夫に独自性があるところは、並大抵の表現者ではない証拠でもある。

ところで最近、小学校高学年から高校に至る時期において、図工や物理といった教科が軽視されがちなことが気になる。時間数が減らされてきた図工については、「がんばれ!図工の時間」という名の活動が問題提起しているように、かたちの表現について修練することは、どんな学問を究めることにも有用であろう。物理は、選択しなければ逃げられる学科になりつつあるが、現象を抽象化して定式化(定型化)し、そこから推論を積み上げる方法を学ぶ基礎的な教養である。どちらにも共通するのは「かたち」の視点。1次元と2次元、3次元を自在に往復する想像力、3次元を1次元で説明する能力は建築の基礎能力に他ならないが、日本をリードする政治家にも不可欠な技能ではないか。どうもみんな視点が平板そうだし。図工と物理の良い教師をもっと育てなければ。ちなみに、みどりさんの巧みな楽曲構成を聴いていると、ひょっとすると、この分野でも優れた教師なのかも?

佐野吉彦

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