建築から学ぶこと

2014/05/28

No. 426

紀の国に受け継がれてゆくもの

5月の紀州は緑豊かで、空が高い。和歌山県は優良県産品推奨制度(プレミア和歌山)として梅や醤油、マグロに備長炭、熊野の祭りなどを指定しているが、本当にこの地は素材の魅力にあふれたところである。とりわけ、木こそ敬意を払うべき素材だと、建築に携わる者として考える。当地の建築には木材を使いこなす伝統があり、現在も、広谷純弘本多友常など当地にゆかりのある建築家らがすぐれた成果を挙げている。木材の流通事情をふまえたデザインワークは、これからもこの地の建築の個性を形成してゆくだろう。

さて、久しぶりに和歌山市内に投宿した翌朝早く、早朝ゆっくりとジョギングでまわってみた。ランドマークである城址とそれに近接する近代美術館や博物館、広い街路や河川など、景観要素もなかなか充実している。しかし和歌山市には重要伝統的建造物群保存地区を有する県内・湯浅町のような取り組みは近年までなかった。都市景観に影響を及ぼす動きが少なかったからかもしれないが、ようやく2008年に県の景観条例、2011年に市の条例が公布された。転回点は和歌山城周辺の官庁施設の建替えで、市は一帯を「和歌山城周辺景観保全地区」と定めるシフトを敷いた。ここから和歌山発の、良質なシビックコアが育ってゆきそうである。

一方で和歌山は風水害や震災が身近にあるので、建築としてどのような備えをおこなうかの定常的な発信は期待される。南近畿を襲った2011年豪雨のおりには、応急仮設住宅を木材で準備できたのは和歌山県ではなく奈良県であったが、その後行政の体勢も整い、木材活用の道が開けた。東日本大震災の直後から、福島県等の自治体、各地の建築団体が積極的に魅力的な仮設住宅のプロトタイプを提案してきているのをみると、木材の安定的な供給があり、それを活用できる能力を持つ和歌山こそ、多くの重要な知見を生みだす可能性がある。

佐野吉彦

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