建築から学ぶこと

2010/08/25

No. 242

手づくりの文化の基盤 -人と建築を結ぶ試み(下)-

前回紹介した「MATfukuoka2010」 (Modern Architecture Tour in fukuoka) は、当面、期間集中のイベントである。片や1970年に設立されたシカゴ建築財団 (Chicago Architecture Foundation) の活動はすでに日常に根を下ろしている。第6回でも紹介したように、建築見学ツアーや講演会、シカゴの建築をテクストにした教材の作成など多彩で意欲的。シカゴという都市の重層性を、建築を通して読み解くことに取り組んでいる。市民と都市の歴史の距離を縮める試みとして、あるいは都市観光の先進例として、普遍性を有するものと言える。その活動をかねてから評価していた松岡恭子さんは、それこそ福岡でこそ導入可能な視点だと見抜き(*)、MATのリーダーシップをとってきた。

ここでのポイントは、複数の事業を同時に推進することであり、ある時代の建築にスタイルに限定していないことである。それによって、建築や都市を複眼的に捉えることにおいて実効があがる。ただ一般的には、日常的な継続も、いきなりの複合性の実現も容易なものではない。シカゴも福岡もまずツアーを主体にスタートした。そのような立ち上り方でなければ、個別の取り組みを連結するしくみづくりも考えられるかもしれない(たとえば大阪では、太閤水路(かつての下水路)の活性化なども試みる「船場げんきの会」や、江戸末期の大阪の町家を扱う「住まいのミュージアム」、高度成長期に着目する「ニッポン建設映画祭」などが連動できそうである)。

ところで、アメリカの大都市では、ワシントンDCのThe National Building Museumが建築文化を支える基盤をつくろうとし、ボストンのThe Boston Architectural Collegeがプロフェッショナルの継続的な教育基盤として盛んに活動を継続している(後者は、CPDやインターンシップの運営組織の参考になりそうだ)。ともに1980年創設で、シカゴ同様に複数の事業が包含されているが、それぞれの都市らしいキャラクターと人材(前者は首都、後者は大学都市)を活用しているところは興味深い。

建築のために基盤をつくるというよりも、建築を都市文化の基盤として積極的に使ってゆくこと。その取り組みは市民にとってこそ有益である。

佐野吉彦

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