建築から学ぶこと

2013/06/05

No. 378

その場所ならではのひそやかな表現

山梨県北杜市は晴天率が高く、豊かな伏流水に恵まれた場所だ。それを背景にして苦心して培われた農の伝統もある。2004-6年には、八ヶ岳山塊の大きな裾から甲斐駒ケ岳の裾にかけて散在する自治体が合併して、大きな市域が生まれた。この北杜市全体を眺めると、実に多くの個人美術館を擁していることがわかる。清らかな森や農地を抜け、少しばかり土地を上下してみると、趣向の異なる美術館が現れる、新たな発見に満ちた場所である。

八ヶ岳側には、谷口吉生さん設計の清春白樺美術館、北川原温さん設計の中村キース・ヘリング美術館のように、巨大ではないが忘れ難い印象を残す建築がある。それぞれ、光の明暗を効果的に扱っていて、作品に対する集中度が高められる仕掛けがある。もっとも、アーティストゆかりの敷地ではなく、それゆえに土地とのかかわりをかたちに反映する前提がないところは、アーティストの体温が残る真鶴町中川一政美術館(神奈川県)やイサム・ノグチ庭園美術館(香川県)とは異なる出発点だ。気候は厳しくとも、高原の美術館には自由なアプローチが可能だったということになろうか。そこから始まる作品と土地のあいだの新たな物語が興味深い。

サントリー白州蒸留所がある甲斐駒ケ岳側の森も、かつては10年にわたって<アートキャンプ白州(白州・夏・フェスティヴァル)>が開催されるなど、多ジャンルのアーティストに縁がある場所だった。舞踏家・土方巽の流れを受けた田中泯らがこの地域を「道場」とし、パフォーマンス系が充実した芸術祭であったが、当地にあった<辺境からの革命>的なメッセージはその後、<大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ>、また<取手アートプロジェクト>のような試みに受け継がれることになった。

佐野吉彦

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