建築から学ぶこと

2023/11/29

No. 895

テルミニ駅から学べること

ローマの陸路の玄関・テルミニ駅 は19世紀末に完成したのち、1931年の設計コンペでマッツォーニが勝利した。マッツォーニはムッソリーニのお気に入りで、その意を受けてデザインが二転三転したのかもしれない。完成は政権が崩壊したことで間に合わなかった。構想にあった、側面壁のアーチ状の連続開口だけは実現して今日に至るが、正面に設けられるはずの列柱のアイディアは実現せず捨てられた。そして、戦後に実施されたコンペでモントゥ―リのチームが勝ち抜き、新たな正面デザインの構成が採択され、現在に続く顔となった。優雅にカーブする鉄と、ガラスで構成される大きな庇がつくる空間は、当時から旅行者をワクワクさせていた。
さて先日、ローマを40年ぶりに訪ねた。さらに言えば、テルミニ駅を利用するのは53年ぶりである。その頃は壮麗なローマの建築群に関心が強かったので、駅の印象は弱い。今回は駅で時間があったので、この建築を堪能することができた。実際には、2000年にカスティリオーニによって改修設計が施され、駅機能が充実した。たとえば、メトロや空港行き列車との接続強化に加えて、大庇の下に浮遊する2階には書店、プラットフォームを見渡す高みにはレストランゾーンが整備された。私の滞在を正確に言えば、空港との行き来に列車を利用したことで、テルミニ駅で時間を過ごす楽しみが大きく加わったことに気づいたのである。
そう言えば、これまでのローマの権力者は、王宮も大伽藍も駅などの建築に自らの野望を重ねてきた。現代なら、都市の力をわかりやすく象徴するのは空港ということになるだろうか。いや、これからは建築ではないものが主役になるのかもしれない。そのぶん、かつての権力の館も駅も、使われやすさを目指す方向に変化してきている。ローマから学べるのは、建築の基盤がよくできていれば、うまい再編集も可能だということである。

佐野吉彦

明るい陽射し、のびやかな空間

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