建築から学ぶこと

2021/09/01

No. 784

6分の1が意味するところ

東京パラリンピック開幕を前にした8月19日に、国際パラリンピック委員会(IPC)と国際障害同盟(IDA: International Disability Alliance)を筆頭として、これに国連各機関などが加わって、世界の約12億人の障害者の人権を守るキャンペーン「#WeThe15」を開始すると表明した。15は、その12億人が世界の人口の15%に当たるとの認識に基く。現実に教育や雇用機会の点で障害者は不利な状況に置かれており、このキャンペーンには、社会の意識や社会のありかたを変えるメッセージがこめられる。

東京でのパラリンピックはそのための象徴的な機会となる。ここから10年のなかで、同様の方向性を持つ国際スポーツイベント「スペシャル・オリンピック」(知的障害者対象、Special Olympics)、「インビクタスゲーム」(傷病兵対象、Invictus Games Foundation)、「デフリンピック」(聴覚障害者対象International Committee of Sports for the Deaf)と連携してゆくのだという。それらを通して、人それぞれにある制約を通じて社会に参画し、制約のなかでチャレンジできることを知ることにおいて、スポーツは理解しやすいシンボルである。

だが一方で「#WeThe15」は、身体の不自由に限らず世界のあちこちで起こっている人権にかかわる困難に目を向けさせるメッセージでもあるだろう。まず、健常と感じている人には、不自由と向きあう6分の1を対岸で見るのではなく、自らに引き寄せて考える必要を促している。さらに、すべての人々が謙虚でバイアスのない眼差しを備え、異なる文化や意見に寛容であるために、必要な法の整備、教育などの社会制度改善のアクションに取りかかる背中を押している。それぞれの問題解消には時間がかかるかもしれないが、「#WeThe15」は明瞭な号砲の役割を担っているのだ。

佐野吉彦

近刊、「精霊に捕まって倒れる」(みすず書房2021.8):医療の現場にある、多文化共生の課題を見つめながら、希望を探り当てる書である。

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