2024/02/21
No. 906
30年前の社会は情報のネットワーク化が進んでいなかった。大抵の組織では、情報は縦に往き来することが多かったのではないか。ピラミッドの上の方とは、より多くの情報を知りうる立場との前提があり、だから良いジャッジができると信じられていた。30年前は情報技術がこうしたかたちを崩し始めた時代ではなかったか。そのとき、賢者は縦方向のリーダーシップに将来の問題があると感じ、堅牢な組織に守られる個には問題も責任もないと考えるところにも危険が潜むとの指摘をしていた。結果的に、今日の社会は、情報共有のしかけやひとりひとりが満足できる働きかたの実現において、格段の改善が進んでいる。情報のアクセス権のあるなしで権力を握るなど、もはや不健全で非効率となった。組織の基盤はすっかり変わったのである。
30年前の経営者がこの変化を正確に予見できていたかはわからないが、動きが起こってからあわててパラダイム変革に取り組んでも遅いのである。風向きが変わる局面に早めに気づき、勇気を持って有効な一手を打つことができるのがこれまでの優秀なリーダー像であった。だが、今後も続く社会の変化に追随してゆくためには、そのようなリーダーシップではまだ十分でないかもしれない。
たとえば、生物多様性が重要課題であることは皆が気づいている。実はそれが何にとって有用かは、各分野のリーダーによる認識の差があり、それらを調停しなければ課題解決にはつながらない。おそらく、組織変革においても今後の社会のヴィジョンづくりにおいても、高いレベルの議論を引き出して、より有効な方向を探り当てるファシリテーター的なリーダーシップが必要なのではないか。何せ日本だけでなく世界のあちらこちらで、達成を目指す道筋が旧来の発想を越えていないものが多いのである。