2008/09/17
No. 148
聞くも名高い「岸和田だんじり祭」(大阪府)を見に行った。祭りは大好きだけれど、だんじりについては数年前に「泉州マラソン」で岸和田を走り抜けるあたりでお囃子を聞いたことがあるだけだった。まさにその地点「かんかん場」で、豪壮に街角を曲がる「やりまわし」を見ようと、知人から誘われた。まさしく、その凄味を体験するチャンスである。
この秋祭りは、岸和田の各町の町衆がだんじり(地車)を曳いて岸和田天神宮に向う、300年続く行事。その激しい競いあいがだんじりの魅力、1年を通して周到な準備と訓練がおこなわれている。当日、かんかん場の少し高い位置に陣取っていると、だんじりが間を置きながら次々と、勢いをつけて曲がってくる。見どころの1番目は、先に角を折れている綱の曳き手と、スタンバイしているだんじり本体との息がかちっとはまり、綺麗に90度の角度をつけて曲がり、滑らかに「演技」を終えるところである。アメリカンフットボウルのプレイを思わせる、短く、濃密な組織的行動だ。
見どころの2番目は、道具の入念な手入れである。だんじりは、祇園祭のような優美さではなく、合理的に駆け抜けるマシンである。曳行のあいまに確保される休憩時間は、F1レースにおけるピットインと同じく、分厚いコマ(車輪)の交換タイムでもある。戦い終えたほうのコマは、すでにじゅうぶん熱を持っている。このような祭の精度は、確実な技術の蓄積によって支えられている。
そして、見どころの3番目は、美しく染め抜かれた法被(はっぴ)である。曳き手集団の背に、日が落ちたあとの灯入れ曳行では目立つ存在となる小さな子供たちの背に、おおきな印が誇らしげに輝いている。そして、襟元には「若頭」などの役割が明示される。無駄のない、引き締まったグラフィックデザインである。そのなかから地域を支える有用な人材と組織が育つ。だんじりの凄味が技芸にあるとは、新たな発見だった。これぞ、祭りから学ぶこと。