建築から学ぶこと

2023/03/22

No. 861

節目における言葉

これまで、大学の記念式典といった場には出席する機会を得てきたが、学生が主人公である卒業式や入学式に出ることはさほどない。学長がそこで語る言葉はニュースや記事で触れることはあるが、先日ある大学の卒業式に実際に出てみて、なるほど学長式辞とはこういうものか、と大いに納得した。節目の式典だと、師の恩・仲間との友情に触れ、これからは社会に尽くせなどという挨拶が想像できそうだが、システム情報学の専門家であるこの学長は、たとえば「予測の外側にあるテーマを探せ」というような言い方を用いて学生に語りかけていた。
これは、<すでに結果が予測できてしまうテーマはする意義がない>との研究者としての卓見に、<大学で究める知は、これから属する社会が求める価値とはまた別である>との冷静な認識を掛け合わせた話である。なので、どの時期にも、どの方面に進んでも、予測不能な世界に踏み出し、そこで新たな価値を創り出すことが重要とのメッセージを伝えようとしていたのである。
そう言えば、文字で読んだだけだが、文学・物理学・人類学出身の学長はそれぞれ異なる切り口から話を切り出していた。どうやらこういう場では高い専門性から切り出すのが聞かせどころのようで、いずれも濃度が高くて刺激に満ちている。つまり、それぞれの分野を極めた経験が、行く手にあるテーマを探りあてる力になることを示そうとしているのではないか。
一方で今年の卒業生は、平常な1年(大学院なら3年)の後、あとの3年はコロナによる毎年異なる行動制限に揺さぶられ、すでに予測の難しい学生生活を過ごしてきている。かれらは学長の話をどう聞いただろうか。60年代後期の大学紛争期の若者のなかから時代をポジティブに動かす人材が出てきたように、この時期ならではの切れ味ある知見を得た次世代の登場を期待したい。

佐野吉彦

新たな世代が社会を動かす:日本武道館の大きな卒業式も復活

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