2020/12/02
No. 748
企業の経営には、普遍的な原理原則と各組織固有の特性がある。もちろん建築設計の組織も同じである。そこには設計事務所ならではの基本的規範があり、それぞれが独自の「個性」をまとっているはずである。すなわち、経営とはこれらの要素の複合ということになる。
どの分野の企業も、経営方針を立てて人と資産を運用し、利益を生み出すことをやっているだろう。設計事務所(建築士事務所)においては、法律で定められた専門業務を完結させるために、日常から知識と成果のレベルを高める努力を継続することが求められている。そのためにトップから始まって能力のある専門家を配置し、それを軸にした組織運営をおこなうのである。さらに、顧客を獲得するためには、すぐれたデザイン力・技術力のアピール、地域に密着してきた設計事務所のような独特の積み重ねなどの「個性」が必要となる。そうした組織の特徴を社会や他業種に対して丁寧に伝えることは重要であり、それは社会の相互理解につながってゆくだろう。
ほとんどの設計事務所は経営者、かつ現役の技術者である代表者の個性に拠る部分が大きい。規模の大小とは関係なく、それは事実だろう。そのことから、社内で世代や立場を越えて直接対話する機会は意外にあるのではないか。世代の断裂を少なくできるのは利点であるが、それぞれが発想の視点を専門的知見に置く傾向があるかもしれない。となると、いかに偏りのない議論ができるか、そのなかからいかにリーダーシップや人格、モラルを育んでゆくか、分有されている経験や知識をどう共有して新たな価値を紡ぎだすかなどが課題となるだろう。まさに組織には<人の力を育て、活かす責任>がある。設計事務所の仕事は、普遍的な原理原則に照らし合わせて優れたものであるべきだが、社会の資産を生み出す仕事であるだけに、経営の質を高めることは社会的責任である。