建築から学ぶこと

2023/12/13

No. 897

そのメッセージから読み取れるもの

2023年も、先達としてお世話になった方が一人ひとりこの世を去っていった。私も相応の年齢になったからか、10年上という近い世代も含まれる。それぞれの方は私に緊張感を与えたり、厳しい注意が飛んできたりもした。仕事で世話になっていたある企業の専務はいつも温和な風情だったが、最終の新幹線で下車のおり、デッキで遭遇し、疲れた眼をしていたらしい若僧の私を笑顔で「えらいお疲れやね」とねぎらっていただいた。それ以来、いかなる場面でも油断はできないと身に染みた。私はこのような感じで、生きる知恵を先輩からありがたく頂戴してきたのである。
先日、貴社が100年続いてきたポイントは何ですか、と聞かれることがあった。答えのひとつは主たる業務が変化していないこと、であった。新築が枢要の時代も、改修に注目が集まる今のような時期も、建築設計の使命と専門能力は同じなのである。それを幸として、この先もバトンを持ち続けることになるだろう。答えのもう一つは、多様な業務に没頭する中に、業務の転換の兆しが姿を現す瞬間があり、それを見逃さなかった、というものである。もっとも、この答えは少々恰好つけすぎている。現実には、変化の局面の多くは難儀な場面で、いかにそれを乗り切るかに必死だったからである。一方で、その難儀さは一緒に業務に取り組む発注者や協働者も感じていたはずで、必死さは同じだった。多分、難儀な場面とは、社会全体が転換を目指している局面だったのだろう。
今年は、当社以上に歴史をうまく築けてきたはずの組織が、危機に際して舵取りにもたつく例をいくつも目撃した。マネジメント論から言えば初動の誤りなのだが、社会の変化、社会認識の変化とのミスマッチもあっただろう。個人も組織も、「えらいお疲れやね」のような言葉から何かを読み取れるとよいかも知れない。

佐野吉彦

学びは残る、建築は残る

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