建築から学ぶこと

2015/12/02

No. 501

建設産業を変える「刀」

このコラムは、建築という対象の本質を掘り下げるために、世に現れる多様なできごとを素直に見つめることを基本としてきた。なので、世の中に飛び交う一刀両断的なステートメントについてはいつも割り引いて聞いている。そのようなスタンスではあるが、建築産業の中にずっといる者としては、現下にある課題の正しい解決策がなかなか出てこないことにはいくぶん、焦れている。

いま建築界では建築技術と技術者モラルの低下が生まれ、特に専門工事業では優良就業者が減少し、全般的に技術継承の困難に直面している。それら基盤の弱体化が社会に及ぼす影響は大きいし、社会資産の毀損を引き起こしかねない。長い景気低迷は克服しつつあっても、デフレ傾向も建築産業の持続と質の維持に影を落とす。これらに地方衰退と高齢化社会が生む問題を加えると、建設産業あるいは日本の国際的競争力の将来は大丈夫かという懸念が残る。

それは政治主導や法制度の手直しで改善が進むかもしれない。ただ、民主国家である日本は、建設産業基盤にかかわる幅広い層が自発的に知恵を束ねて取り組むのが本来ではないか。現実の問題は多様な職種の作業の隙間に、あるいは統率の油断のもとに起こってきた。すべてのプレーヤーが絶えず自らの実務能力・統率能力を高め、多様な業務への視野を広げ、職業倫理を高め、円滑な事業承継を目指すなかで、課題はひとつずつ改善されてゆくと考える。そのなかで、建築生産プロセスにおける課題群を切り抜けるだけでなく、未来を構想できるリーダーシップについては、設計事務所が取るべきではないだろうか。

設計事務所には、技術の力に加えて卓越したリーダー能力育成が求められる。いや、それなくしては生き残りさえ難しくなるだろう。そのために、プロジェクトと諸情報の適切な統括に導く「刀」、すなわちBIM技術の社会的普及と定着は大いに有効である。BIMの普及によってプロセスのフロントローディングを促進すれば、設計事務所が知恵を出すべき領域とそれに対する報酬対価が正しく位置づけられるということもある。私はそうした明瞭な目標設定こそが日本の建設産業の国際的な競争力を強化すると思う。楽観的過ぎるだろうか?

佐野吉彦

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