建築から学ぶこと

2008/04/16

No. 128

大事なのは、個人の成熟なのかも

国政や地方自治体の選挙など、国内外を問わずいろいろなケースでマニフェストを掲げて戦うことが定着してきた。私はこう改革すると宣言したら、形式的にはやり遂げないと投票者の期待に背くことになる。最近は事前の入念な準備が進んできており、政策提言の密度が上がってきているのは事実である。このマニフェスト選挙に課題があるとすれば、限られた強力な候補のなかから必ず誰かを選択しなければならないことであろうか。投票者はいろいろと掲げた政策を良くも悪くも丸呑みするわけだから、当選者のフリーハンドを認めることになる。これは、実は融通の利きにくいものだ。マニフェストにおける政策は社会の状況変化には対応しにくい。これを改善するには、マニフェストを事前にしっかりつくらせることではないだろう。つくった政策に固執しないよう、選ばれた者の背中をうまく「さする」ことだ。

おそらく、当選者も投票者も選挙とその結果に過剰にしがみつかないのがよいと思う。作家・小田実(1932-2007)は言う。「民主主義とは、制度のことではなくて原理の実現なんですから。選挙をやっていれば、それで終わりということになってはいけない」。すなわち、重要なのは「自分たちがそれぞれの政策を持たなければならない」ことで、有権者は、民意が正しい流れで反映されているか、個別の状況をウォッチする責務がある。本当にその制度は必要なのか、そのハコモノは必要なのか必要でないのか。それには受身でなく、かつ冷静な判断力が育たたなければ、マニフェストは土地を荒らすだけに終わるだろう。

今や日本でも調整型リーダーの時代は過ぎ去ろうとしている。古い制度や過剰なハコモノに批判が集中したとしても、名前を入れ替えたり中途半端なコストダウンや安易な外部委託などで議論をまとめたりすることでは、結局は役に立たない可能性がある。その場合、有権者の側が鋭く(しかし現実性のある!)対案を提案できるかどうかが鍵となる。日本社会の成熟はまだこれから続いてゆく。

佐野吉彦

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