2016/04/06
No. 518
その図書館は、シンボリックな形態を有している。この春から立命館大学・衣笠キャンパス(京都市北区)の正門脇を固める<平井嘉一郎記念図書館>は、このキャンパスにおける活動の核となるだけでなく、「知」をゆさぶりにかかるダイナミックな場所となる。学びの多様なスタイルに対応した新しい機能・仕掛けはあるが、ことさらに親しみやすさを売りにしない。中央にくりぬかれた吹抜をはさんで圧倒する書棚の集積によって、訪れる人の身体と内在知を刺激しにかかる。このありようは、図書館の正統的文脈に沿っている。すなわち、「実」のある書物から発せられるエネルギーが人の成長を促すのだというメッセージにほかならない。
ここはまた、人を異なる学のフィールドに自然にいざなう場となる。学問ごとに確立された知的体系を踏み越えてゆくのに蛮勇は必要ないけれども、他の体系との「接続点」を探りあてる眼力と、道をそれる「柔軟さ」はあったほうがいい。そのことを松川昌平さん(慶大准教授)は、「楽しさの連鎖」ということばで表現していた。膨大な書物が隣りあう空間を探検する過程でひとりひとりの運動能力が鍛えられ、幅広い守備範囲を持つ人格が形成されるであろう。
この図書館には白川静文庫と加藤周一文庫が設けられていて、知の巨人の基盤と所産に触れることができる。彼らが「接続点」を見出して広がりを得て、さらに深さを獲得した経緯を学ぶことができるコーナーである。加えて紹介しておきたいのは、この図書館そのものが立命館出身の実業家・平井嘉一郎氏から寄贈を受け、その名を冠することになったことである。平井氏の軌跡を知るコーナーは、近代産業興隆にかかわる貴重な情報を提供するものであり、「知」がどのように社会において「実」を生み出してゆくのかを学ぶ興味深いものである。それはまさしく私学の気概を体現している。