建築から学ぶこと

2018/01/10

No. 605

年初めの物語、2018年

東京もニューヨークも、株価がぐっと上昇して年が明けた。この情勢を世界同時好況と表現する向きもあり、財界のリーダーや首長たちのあいさつには、ポジティブな言葉が並んでいた。確かにインバウンドも好調、オリンピック・パラリンピックが控え、その先に大阪への万博誘致を窺う日本。だが、企業存亡の危機を経験した経営者と個別に話してみると冷静なところがあり、グローバルな競争力にある課題、戦争や災害にかかわるリスクの懸念もあった。どうやら穏やかな明るさとともに翳りもある2018年初頭で、御厨貴・東京大学名誉教授によれば、自然災害、テロリズム、社会不安、そして政治(*1)が気がかりな「不気味な時代」のなかにあるとも言える(*1)。ここでまず日本がなすべきなのは、災いにいかに備える以上に、それが起こったときにも強靭に回復できる<足腰>を備えておくことであろう。前向きな目標を設定するのであれば、そこに向かう戦略を「皆」がきちんと共有する必要があるかもしれない。日本が2020年より先に確実に進むために、こなしておくべき宿題が山積する年初めである。
ところで時代を遡る2001年、ジョージ・W・ブッシュ(息子)大統領は就任演説において、「われわれ(アメリカ国民)は全員が長い物語の一部を担っている。物語の著者ではないのでその結末を知ることはないが、互いにベストを尽くし、それぞれの責務を果たし、たゆむことなく、大きな目的のために、この物語を続ける」と呼びかけていた(*2)。その前年のアル・ゴアとの僅差の選挙戦、加えて票集計をめぐる混乱などを乗り越える意味をこめた可能性もあるが、清々しいメッセージである。これを、同年秋の同時多発テロに始まる、ブッシュが大統領としての手腕を試され続ける歳月と重ねると興味深いものがある。その後のアメリカは何とか三権分立のシステムをうまく機能させながら駒を前に進めているのだが、2018年のアメリカ、そして中国の位置はどうなっているだろうか。日本以上に明るさと翳りの並存がある両国の現在を注視しておくことも、日本の今後を現実的に考える上で重要である。

 

参考
*1御厨 貴[「戦後」から「災後」へ移行急げ];日経新聞2018.1.5

*2阿川尚之[憲法で読むアメリカ現代史];NTT出版2017.11

佐野吉彦

視界は良好ながら、風も吹く(関空にて)

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