建築から学ぶこと

2018/12/19

No. 652

<文化人類学の知>にある可能性:民族学博物館

国立民族学博物館(大阪・千里)1977年に開館した。以来、世界最大級の文化人類学・民族学を扱う博物館かつ研究施設としての魅力と活力を維持している。活動とコレクションの先行活動は、1970年万博における「日本万国博覧会世界民族資料調査収集団」にある。もちろん一過性の取り組みではなく、梅棹忠夫・初代館長をはじめとする人たちは、この活動を通じてあるべき博物館のイメージを固め拡げていった。このような「民博」創設における知の統合の試みは、その後の博物館づくり、知のフレームづくりに大きな影響を及ぼしている。ちなみに、黒川紀章による施設設計はこの方法論とよく響きあう名作であり、彼の目指した社会基盤構築を象徴する成果と考えられる。
ところで、吉田憲治・現館長のメッセージ(WEB)には、「異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界の構築をめざす文化人類学の知がこれまでになく求められている」とある。人は、とかく異なる文化をステレオタイプで眺め、判断してしまいがちだが、文化をめぐる状況は固定的でない。開館した40年前と比べて、社会は相互理解の方向に進んできたようでもあり、バランスを欠く事態にたじろいでいるようにも見える。「民博」の展示空間も、当該地の基本的な社会構造・文化の基本情報を提供しながら、その社会の現在についても力を入れて紹介するように変わってきた。社会がよりよいものになるために、<文化人類学の知>が重みを増しているのである。
今日、好むと好まざるにかかわらず、国の境を越えた移動移住が活発化している。固有の文化と決意を背負うひとりひとりは、異なる文化と向きあっている。そこで、人は文化を変容させ、文化が人を成長させる。ぜひ、動きのある未来はポジティブに捉えたいものだ。「民博」が語りかける<文化人類学の知>は、人が可能性を切りひらくためにも必携である。

佐野吉彦

ザンビアの祭り、インドの現在(民博にて)

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