建築から学ぶこと

2014/02/12

No. 412

冬の日、ニューヨークで考えたこと

建築設計に関わる公的な資格は、業務に携わる者の専門能力と責任を明らかにし、不適格者を除外する役割を担う。こうして能力を社会的に正しく位置づけることは、どの分野の専門家にとっても重要なことだが、それを有しているだけでは自らの行動半径が狭めかねない。建築設計の実際の力は、日常とは異なる土俵、異なる生産プロセスの中でもたくましく生き延びることによってこそ高まるものだ。そのチャンスは国内外に及ぶ。現在の建築設計をめぐる法的裏づけは、大きな枠組みでは国際的に認識が共通してきているが、市場も、実務におけるプロジェクト運営も、地域によって多様性がある。こうした文化や社会習慣の差をうまく受け止め、エネルギーに変えながら作品をつくり出すところに、建築設計の妙味がある。

そのようなことを久かたぶりのニューヨークで考えていた。日本人はとかく米国をグローバル・スタンダードの本家のように言いたがるが、ここの国民すべてがそのような視点で動いているわけではない。建築設計においても、大都市以外ではグローバリズムと関係しない地域的なスケールで作品をつくっているのだ。今回の私は短い滞在期間の中で、活動領域の広い建築家たちにずいぶん会い、そして彼ら同士がやわらかいネットワークを形成していることを見出した。この街には個の力と多くの情報にあふれているのは事実だが、つながる力のしなやかさがあるのだ。

おそらく、日本の建築家は、グローバル・スタンダードの来襲に脅えて身を固くするよりも、自分が信じるスタンダードが世界の中でどの程度戦えるかを試しに出向くことが健全だと思う。もちろん、勝つことは容易でないけれど、負けてみないと分らないこともある。それを楽しめるしなやかな風土をつくることが、いまの日本には大事だ。

佐野吉彦

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