2019/05/22
No. 672
2011年の5月に、ニューオーリンズ(米ルイジアナ州)を訪れた。それは日本では東日本大震災直後であり、この街では2005年のハリケーン・カトリーナ災害からの復興にメドがついた時期である。ヒューマンでフレンドリーな空気がある観光名所・フレンチクォーターにも人が戻ってきていた。市内にあるルイジアナ州立博物館に出かけると、「Living with hurricanes: KATRINA & beyond」展が開催されていて、災害時のビデオや展示のなかに、広域の洪水とカトリーナそのものも凄まじさが丹念に記録されていた。ハリケーンや竜巻、ミシシッピ川の増水と常に隣り合わせのこの街にとって、災害にかかわるしっかりしたアーカイブづくりは重要である。それはまた世界に起こるさまざまな災害にどのように向きあうかの普遍的な知恵を提供するだろう。そのようなことを現地で感じ、この連載で紹介した(第278回「都市は楽しみとともにあり、リスクとともにある」2011.5.18、第279回「視点をつなぎあうということ」同5.25)。
そのニューオーリンズで開催されたAIA(アメリカ建築家協会)大会では、AIA Disaster Assistance Program が紹介されていた。これは全米の中で最も自然災害に向きあうカリフォルニア州が最初に提言したもので、カトリーナでの経験をきっかけに、広い地域に展開することになったものである。その後、東部が直面したハリケーン・サンディ(2012)などでの経験・知見も加えられ、内容が充実した。いまAIAは、緊急支援から再生に向かうコミュニティのなかで建築の専門家が能動的であるべきと考えている。そのために専門技術以外の多くの知識を知り弁える必要があるのではないか。その趣旨はAIA Disaster Assistance Handbook(2017年に第3版)のなかに盛り込まれ、その活用研修を積極化している。この視点はぜひ参考にしたいと思う(日本では複数の建築団体が共同で取り組むのがよい)。専門技術を高める以上に、善きコミュニティーリーダーを育成しようとする取り組みだからである。