2008/10/01
No. 150
米国の金融危機の余燼はまだまだくすぶっている。それは選挙の季節のなかにある日米の政治家たちをおおいに揺さぶっているはずだが、この局面での彼らの発言は、どうも国家を導く者としての迫力が乏しいように感じる。市場で起こった事象の後追いに留まっているように聞こえるのだ。もっとも、その非力さは民間のリーダーたちにもあてはまる。
大騒ぎの直後の9月20日、AIA(アメリカ建築家協会)のPurnell会長は会員向けに緊急メッセージをメール発信した。それは当座の不安な空気を追い払うことよりも、推進してきた施策が経済のペシミスティックな動きのなかでもなお有効であることを主張するものであった。
こうした流れの中で、ぴたりとはまる解決策というものはむつかしい。しかしながら、危機に直面して具体的なメニューが用意されているかどうかは重要であろう。AIAは、サステナブルデザイン、インテグレイテッドプロジェクトデリバリー(Integrated Project Delivery: 設計監理業務における情報統合)はコスト節減に寄与するものであり、何よりも建築家が関与することこそ発注者の健全財政に寄与するものだと述べている。そして、こうした面のスキルアップの機会をAIAは常に用意している、と言い切っている。その確信ぶりには感心させられるが、実は文中から緊急セミナー申し込みページへのリンクが張られている。周到で見事な対応である。
ちなみに、この日付前後の各国建築家協会の対外的な発信を調べてみると、RIBA(英国建築家協会)は計画手続きの簡略化を訴えていた。適切な官民連携を提言したわけである。RAIC(カナダ建築家協会)は、ACE(欧州建築家協議会)の発言を援用しながら、建築とは、社会の適性さや、社会・環境や文化面における適性さの鍵を握るもの、と言明している。それぞれの国や地域ごとの状況の違いはあるだろうが、底辺にあるポジティブな姿勢は共通している。あるべき建築家像とは国境を越えるものなのだろう。文脈は同じである。
付記: 第134回「多様性を楽しむ」も参照ください。