建築から学ぶこと

2022/06/29

No. 825

国境が開くとき

2022年6月の時点に至って、世界は新型コロナウイルスとの付き合い方にかなり慣れてきた。国によって違いはあるものの、国境は少しずつ開いて人が動き出し、それとともに出入国の手続き要件も緩和し始めた。例えば日本から米国に向かうとき、ワクチン接種証明提示は相変わらず必要だが、6月初めには出国前PCR検査が不要となった。それでも帰国には滞在地で陰性証明をもらわねばならない。手数はまだまだかかるが、日本のデジタル庁が開発した便利なアプリ(MySOS)をスマホにダウンロードし諸データを入れておけば事前に審査ができるので、空港での時間が一気に短縮する。私も先ごろその手ごたえを実感することになったが、スマホを使えば、今回の米国の訪問先で要請された健康チェックも、現地におけるPCR検査の予約も証明書発行も楽なので、もはやリスクとはその電源切れであった。

これらは利用者のストレス軽減につながっているが、受付側の負担もさらに減っているだろう。カウンターは無人化しているわけではなく、応対はかえって親切になった印象があった。このように、デジタルを活用するシステムは、簡略化だけが目的ではなく、昨今のようなイレギュラーな状況下で効果的に使い、ケースに応じてカスタマイズできるから本領を発揮できるのである。でも、ここでは旅行者個人が、起こりうるリスクを回避する感覚を身につけているかどうかも重要だろう。たとえばそれは、災害のような困難に立ち向かうときには<公助・共助・自助>それぞれが機能すべき、という話を想起させる。国家は信頼できるシステムや法律を作る役目がある(公助)が、難局を克服するのはコミュニティの連携(共助)であり、個人の創意(自助)である。国境を開くことをきっかけとして、人が自立的に動き始めるなら世界は活気づく。

佐野吉彦

シカゴにて

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