建築から学ぶこと

2016/02/10

No. 510

ネットワーク社会、そしてそこにあるリーダーシップ

アレックス・ペントランド著「ソーシャル物理学」(草思社 2015)は、SNSとビッグデータが大きな力を及ぼす世界をポジティブに捉え、ネットワークに潜む成長プロセスを明らかにする。彼の関心は<ネットワークの中をアイデアがどのように流れていくのか、社会規範がどのように生まれるのか、複雑性はどのようなプロセスから生まれるのか>という点に向けられる。ネットワークの中で起こる、新たな情報の<探究>と、コミュニティへの<エンゲージメント>とを複眼で見据える。そのうえで、ネットワークが生み出す豊かな実りに信頼を寄せ、<コミュニティの中で知性を生み出し、その繁栄をもたらすのは、アイデアの流れなのだ>と説く。その作業は、既存都市のデータセンシングから、真に活力ある都市の計画提案にも及んでゆく。

人類社会は、文化人類学が着目してきた<交換ネットワーク>が原点になっており、そこにまた立ち戻ろうとしているのではないか。彼は、近代があまりにも個人の自由意思に基づいた学問や経営論を組み立て過ぎたことに再考を促し、一方でネットワークバラ色論にも忠告を与える。彼の議論は<新しい行動の社会への伝播は、ローカルに行われる個人と個人とのやり取りを通じて進むのだ。探究のレベルは非常に大きくなったとはいえ、私たちはまだ交換を基盤とした社会に生きている>という切り口に至るのである。

おそらくネットワークとは、個と個の信頼関係がなければ成立も展開もしないものだ。完全にばらばらの状態からは価値が生まれ出ない。こうした視点は、組織論における<強いリーダーシップ>と、これからの組織に求められる<多様性>との間にあるべきバランス感覚について示唆を与える。たくましい<多様性>を活性化するためにリーダーの適切なオペレーションはやはり必要であり、それは現在のリーダーがなすべきことなのである。

 

(※Social Physics: Alex Pentland 2014)

佐野吉彦

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