建築から学ぶこと

2022/01/19

No. 803

継続的なご縁、ということ

顧客との継続的な関係が重要、とはどの業種でも言われる話である。設計組織も同様で、生々しい言い方ながら安定した経営基盤につながる。もっとも接触機会が増えれば、往々にして起こりうる課題や難局の調整もあり、お互いの力量や特性が知られてしまえば、同じような提案をしていては期待に応えることができなくなる。そこでの緊張感はものづくりにおける推進力につながり、企業のありかたやマネジメントに好影響をもたらすであろう。肝胆相照らす顧客の存在は企業の成長に欠かせないとは思うが、油断できない相手もさらに良い顧客である。一方で、特定業種の顧客に依存すると景気動向に揺さぶられてしまう。評論家が解説するように、村野藤吾は特定顧客との固定的信頼関係のなかで作品を着実に作りあげたのは事実ながら、多くの細やかな苦心苦労はあったのではないかと推察する。

もう一つ重要なのは土地との縁である。先ごろ新庁舎が着工した滋賀県守山市では、この仕事(隈研吾氏と協働)に先立って守山銀座地区の再開発ビルが竣工し、さらに遡って立命館守山高校の仕事にも携わった。守山で佐川美術館にBCS賞の審査に出向いたという用向きもあり、休みの日には守山ハーフマラソンに出たこともあった。もっとも、それぞれのプロジェクトの始まりもプライベートの用事もお互い関連ないもので、適度な大きさのこのまちで経験がつながっているだけである。

守山駅には40半ば以降のいろいろな季節に、異なる目的で降り立ってきたので、改札口を出ると苦楽合わせてその時期の思い出が蘇る。好きで訪ねる場所というものがあるとすれば、ここはいつも緊張感とともにある。私にとって組織マネジメントでの立場を成長させてくれた場所と定義できるだろうか。たまに、久しぶりにお目にかかりましたねえ、と語り合う機会があるのがこのまちで一番幸せなことかもしれない。

佐野吉彦

中山道守山宿(photo:663highland

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