2016/01/27
No. 508
金森喜久男さん著の「スポーツ事業マネジメントの基礎知識」(2015、東邦出版)のなかに、<顧客との関係をいかに築いてゆくかが重要である>との記述がある。これをサッカーチーム運営にあてはめると、興行を成立させることを越えて、観客や地域と良好な関係を結ぶべし、ということになる。スポーツにおけるこうした方向性はグローバルに共有されており、どの国でも適用可能である。
先年、あるチームのサポーターが差別的な応援をしたことで無観客試合が課せられたケースがあったが、これはフェアなゲームを成立させるためにはすべての関係者が連携すべきとの警告が含まれているようだ。フェアプレイの場面とは、対戦する同士だけでなく、スタンドにいるファンや長年のファンも共に称えあっている場面であるから、選手はファンに対し、またファンもフィールドにいる選手たちにフェアな態度で接するのが好ましい姿である。もちろん、お互いが名乗りあわなくとも。
この本にはまた、優れたサッカー選手の国際移籍マネーの一部が、かつての所属チーム(少年時代・アマチュア時代にわたる)に還元される「連帯貢献メカニズム」が紹介されている。次の世代のプレーヤーや育成システムに活かされるもので、「気にかけるべき広がり」にまで想像力が及ぶしくみがうまくつくられている。これは、「フェア」のほかの事例、たとえば「フェアトレード」が、取引・交易相手との公正さだけでなく、直接会うことがない生産者や消費者との共感を前提としていることにも共通する。目の前で起こっている素敵な現象が、さらに誰かのモチベーションにつながれば言うことはないのである。
おそらく、すぐれた建築もそのようにつくられてきたはずだ。見えない誰かとただしく共振した成果が、所有者や直接の利用者に益をもたらす以上の価値を生み出している。
※CMr(コンストラクション・マネジャー)