2021/09/22
No. 787
2021年の世界が向きあった困難には、新型コロナウィルス感染症や政権崩壊(奪取)による人権抑圧など、等閑視できないものが多々あった。これらは人智で速やかに乗り越えなければいけないものだが、自然災害の対処もなかなか厄介である。8月にハイチを襲った大地震は世界各地で頻発しており、7月に起こったヨーロッパ中部での洪水のような、気候変動が災害規模を増大させている自然災害は、これまでにないタイミングと場所で発生する。いろいろな危機は常に隣合わせであり、国際連携がますます必要になってくる。
国内の災害を振り返ると、福島県・宮城県で震度6強を記録した2月の地震は比較的被害は大きかったが、7月に全国各地、8月に九州北部で被害をもたらした集中豪雨は特に印象が強い。第778回でも触れた7月の「伊豆山土砂災害」は、狭い流域の128棟(135世帯)に被害を与え、26名の死者を出した、鮮烈な災害であった(9月3日時点:静岡県発表)。8月の豪雨は広域で家屋への浸水をもたらしたが、その被害とともに、2018年に倉敷市真備町を襲った急な増水の記憶が蘇った。
これら二つの集中豪雨は、安全な規準に基づいていたはずの建築が、広範囲の状況が起因して壊滅に至るという現実を突きつけた。建築サイドでの事前・事後フォロー、たとえば危険度の判定・技術的対処だけでは限界があることが明らかになったのである。今後は、建築にかかわる団体・ネットワークだけでなく、専門領域を越えた連携を得て危機を乗り越えるべきであろう。集落のサステナビリティという観点では、社会学の知見も必要と考える。
逆向きに言えば、冒頭で言及した感染症や人権問題では、建築の専門家は主役ではないが、技術の提供によってそれらの困難に貢献できる部分があるのではないか。意に反する生活を強いられる状況があれば、そこに必ず建築的知見が活かせるからだ。