建築から学ぶこと

2013/03/27

No. 368

人の想像力、建築の使命

年度末は街も建築も大きな変身を遂げる節目である。歌舞伎座(東京)やフェスティバルホール(大阪)といった由緒ある劇場も姿を整えなおして再お目見え。建替え前のイメージは引き継がれた。かつての空間になじんだ運営者や見学者が喜ぶ姿はとても微笑ましいし、古いものへの愛惜は歩み出す道程の背中を押してくれるだろう。だが、それ以上に重要なことは、新しい器から新しい歴史が始められるかどうかである。新劇場の設計者は竣工したことで功績を誇るのではなく、これからの文化の基盤を整えた作業がどのような展開を生むかを見守るべきだろう。本来、劇場の評価とは演者と観衆が相互反応しながらつくりあげるものだから、これからが肝心である。チケットを握り締めているひとりひとりを含めて、劇場に関わるすべての者が、現代の名声を獲得するための役目を担っていると言えよう。

すなわち、建替えでも新築でも建築を活かすのは人ということになる。先日、愛知県日進市にある「竹の山小学校+日進北中学校」の竣工式典に出かけた。直後の内覧会は近隣はじめ多くの人々でごったがえしていた。一敷地に新設の両校を併設したこの施設は、連続する棟に取り囲まれた位置に段丘状の大きな広場が設けられている。当日ここで開催された音楽イヴェントの傍らで、見学者たちは広場や図書館や体育館などを自由に位置取りして空間を楽しみ、時間を過ごしていた。それはまもなく建築を小1から中3のレンジの中で分かち合う日々を予感させるものだった。

歴史がゼロからスタートする施設の場合、振り返るべき風景がないから、最初に与えるかたちにはとても重要な使命がある。果たしてうまく使いこなし、そこから人がどのように育ってゆくか。成熟した社会の中で建築を世に送り出すにあたっては、皆がその先にある収穫を想像できることが重要である。設計者の想像力も技術力もさらに鍛えなければ。

佐野吉彦

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