建築から学ぶこと

2018/06/27

No. 628

田中宏暁さんの知恵

それがジョギングであろうとレースであろうと、イーブン・ペース(均等なペース)で走るのは気持ちがいい。坂道を上下するときも、必要な筋肉にきちんと役目を果たしてもらうわけで、身体の道理にかなっている。以上は私の実感だが、そのようにしてゆっくりと長い距離を走る方法を、田中宏暁さんは「にこにこペース」による「スロージョギング」と名づけた。運動生理学の専門家(福岡大学スポーツ科学部教授を務めた)としてその効果を分析して、その普及に努めた。優れたランナーで名コーチであったが、お酒を飲んでも楽しい人だった。気持ちよく走れるまちをどうつくるかという話題で盛り上がったこともある。いろいろなヒントを田中さんから頂戴することができた。
田中さんの活動の影響は国内外にわたり、韓国でも著書は翻訳された。その生き方は敏捷で全くスローではなかったが、昨春「ランニングする前に読む本」(講談社ブルーバックス)でその理論をわかりやすくまとめて上梓した秋、病気が発覚して今年4月、あっという間に亡くなってしまったのである。その本のあとがきにあった、<にこにこペースのランニングがなぜこんなに効果があり、健康増進に有効なのか、未知の部分がある。それを一つ一つ解き明かす研究を続けたい。とりわけ2020年五輪への貢献と高齢者の健康寿命延伸に寄与すべく、邁進したい>という思いは潰えてしまったが、理系のランニング論は、誰かの手できちんと受け継いでほしいと願う。
ところで、ペースがイーブンであるためには、人は精神が安定していなければならない。あるいはイーブンにすることで精神が安定するというべきか。すなわち、人は健全で、健康で、同時に健脚であるべきと私は考える。このような精神論的次元で田中さんは語らなかったが、田中さんから学んだ知恵がベースになっている気がする。

佐野吉彦

かつてと比べ、はるかに快適な走路に: セントラルパーク@NYC

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