建築から学ぶこと

2016/07/27

No. 533

人の心を動かした世界遺産

先日のUNESCOの世界遺産委員会で、あらたに21件(分野:文化12、自然6、複合3)の世界遺産登録が決定した。広く知られているとおり、登録名称「ル・コルビジェの建築作品、そのモダン・ムーブメントへの顕著な貢献」が含まれている(分野:文化)。世界でこれまで1052件登録されたうち、日本は文化が16、自然が4だが、今回は諸国諸地域を結んでの登録となったのは、ひときわ意義深い。登録名称のもとにル・コルビジェが設計した7カ国の17作品の構成資産があり、偉大なる建築家がその近代建築思想を結実した広がりが、近代社会形成に果たした誠実な役割が示されている。上野の森の「国立西洋美術館・本館」はひとつの達成ではあるが、サヴォア邸(フランス)やチャンディーガル(インド)とは共通の根あるいは魂を共有するものだ。今回同時に登録された、オスカー・ニーマイヤーが設計をまとめた「パンプーリャの近代建築群」(ブラジル)にある豊かな建築と景観における成果も、ル・コルビジェの血脈につながるものといっていい。それほどにル・コルビジェは世界で影響力ある仕事をした。
今回の登録までの道のりには15年を要したと言われる。最終的に単独の作品や複数の作品が対象ではなく、多くの優れた建築をつくるプロセスを通じて建築界を発展に導き、近代社会と都市の姿を生み出した貢献、にスポットライトを当てた。これからの訪問者は、ル・コルビジェの力強い作品に感動するだけでなく、そこに人が人の魂を揺さぶった場面があったことに思いを馳せるだろう。さらに、いろいろな場所で、自らの風土や自国の建築家がどのようなメッセージを受け取ったか、それが別の風土で起こったことと何が同じで何が異なるかを考察してもらえるとなおいい。
今回は、画期的な世界遺産誕生を慶び、日本におけるル・コルビジェの仕事が首尾よくリスト入りしたことをさらに慶びたい。そこには国立西洋美術館をはじめとする建築管理者、それ以上に、積極的にマネジメント役を務めた山名善之さん(東京理科大学教授)の力を忘れることができない。

 

登録までの経緯は下記のサイトを参照ください。
上野の西洋美術館、最後まで難産の世界遺産登録-仕掛け人、山名善之・東京理科大教授が語る舞台裏(上)
「失格」寸前からの大逆転 上野の美術館、世界遺産に-仕掛け人、山名善之・東京理科大教授が語る舞台裏(下)

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。