2011/05/11
No. 277
ゴールデンウィークの大阪は、オープンした商業施設・大阪ステーションシティやあべのキューズタウンが中心部にひさびさの賑わいを呼び込んでいた。あらたな磁力が場にうまれ、人を動かしたのである。さて、この時期の関西エリアでは意義あるコンサートがいくつかあった。ひとつは夙川カトリック教会聖堂での、日本テレマン協会による第199回定期演奏会(かつ第165回教会音楽シリーズ。5月3日)。この聖堂を活動の基盤とするアンサンブルは、延原武春指揮のもとでモーツァルトとフォーレの2つのレクイエムを奏でた。震災に際して当初予定のプログラムを変更したもので、弾み感を感じるモーツアルトと、フォーレで見せた精妙なアンサンブルが印象深いものがあった。阪神大震災発生の1月17日の日に、何年か続けて、この被災もした聖堂で追悼のフォーレを演奏してきたかれら。思いをこめてしっとりと成熟した音を聴かせていた。
関西フィルハーモニー管弦楽団の第228回定期演奏会は、ヴァイオリニストでもあるオーギュスタン・デュメイが音楽監督に就任してからの初登板(4月29日)。プログラムのなかでは、モーツァルトの交響曲第29番を楽章ごとにテンポを自在に動かしていたのが興味深い。オーケストラの奏者たちを上手に鍛えそうである。その同じ日に北大江地区にあるレストラン「マリアン」で聴いた、清水玲子らが弾いたシューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」はとてもスケール大きな姿にまとめあがっていた。ここに挙げた演奏者たちはそれぞれの場所と深いつながりがあるのだが、そこにある深い志は、言葉を介さなくとも聴衆に訴えかけるものだ。
場所とのかかわりという点では、東京都現代美術館での田窪恭治展「風景芸術」も共通しているテーマと言えるかもしれない。場所と人とがどう真摯にかかわりあったかは、そこにいる人の心に直接響いてゆくものである。その手ごたえを感じることが、またあらたな価値を生み出す力となるであろう。