2016/06/29
No. 529
茨城県はアートイヴェントが盛んな地である。各所で続く取り組みの中でやや手薄であった県北地域で、この秋に茨城県北芸術祭(KENPOKU ART 2016)がスタートする。総合ディレクターを務める南條史生氏は、茨城県がアートと科学技術の両面で先駆的な役割を果たしてきたことに着目し、「最先端の科学技術との協働にも注目をしたい」というメッセージを述べている。商品開発や企業メセナ、街おこしなど、アートと産業振興の結び付け方にはいろいろなケースがあるが、わかりやすく親しみやすい解を導くより、影響力のある作品が生まれることが重要である。それを次々に生み出す地としての評価が生まれないと、地域のブランドにはなってゆかないだろう。
一方で、山形県は有機EL技術開発から生産に続くプロセスが充実している。民間が山形大学とともに歩む気運のなかで育った技術を行政がバックアップし、地域的定着を図り、「有機ELといえば山形」を謳うブランド力につなげてきた。興味深いのは、演奏レベルで定評のある山形交響楽団が有機EL照明を取り付けた譜面台を採用したことで、芸術との結び付きが無理のないかたちで、しかも明瞭な成果を伴って進んでいる。ブランドのかけあわせがうまくいった「素敵な」ケースと言えよう。
このように、すべてのめざましい成果は地域に芽吹くものだが、強いブランドになるには普遍性を持つべきである。観光土産に留まってはもったいない。いま、ほとんどのユーザーは「Skype」がバルト海に臨む小国エストニアで開発されたことを意識しないが、個人の独立心が高い気風があり、ソ連に属していた時代からIT技術が集積し、それが結果として独立後の行政に活かされるという歴史の上でSkypeが生まれたことを知ると面白い。それだけでエストニアに対する畏敬の念を感じてしまう。日本の地方が直接世界とつながり、存在感を発揮することを期待したい。