建築から学ぶこと

2008/09/03

No. 146

プロフェッショナルの道筋

建築士法の改正(11月28日)を節目とする、さまざまな制度や法令の見直し準備が概ね峠を越えた。この一連の流れに、あらたな構造設計一級建築士・設備設計一級建築士資格、管理建築士講習・一級建築士定期講習の実施、業務報酬基準改定が含まれ、さらに建築CPD制度、大学院カリキュラムのなかに位置づける実務経験認定などが続く。実にいろいろあるものだ。1年経った改正建築基準法にようやく慣れたところで、今年も建築の実務の至るところで多くの影響が及ぶ。すでにスタートを切ったものもあり、専門家の手間が増えることは確実だろう。

現在の日本の建築士制度は、もともと異なる専門分野を包括する資格となっていた。専門教育のプログラムと連動してきたわけだが、今回の改正でひとまず分野の違いが明示された。それはUIA提唱のアーキテクトや、APECアーキテクトといった国際的な相互認証と関係づけたことにもなる。建築士制度は解体されないけれども、法律は時代に応じて修正する余地はある。その意味では今回の改正は必然的に行われるものとして捉えたい。

構造計算書偽装事件以来、国土交通省は「国民の信頼回復のために」という前置きを使いながらこうした制度改正をリードしてきた。でも、このキャッチコピーはそろそろ取り下げてよいと思う。それだけのことなら、万事が受身の気分になってしまう。本来、今回の改正の本質は「専門教育—実務訓練—資格の認定・登録—継続学習」という、プロフェッショナル育成の正統的な道のりを形づくることにあるのではないか。そういう趣旨をあらためて社会に向けて表明するべきである。そのときに、建築設計者(建築家)という職能の定義がまだ共有できていないことは課題である。昔ながらのプロフェッショナル像は通用しないが、増える手間の先に、これからあるべきプロフェッショナルの姿がクリアに定位されるべきなのだ。

一方で、社会が今回の改正を有用なものとして受容するかに注目したい。建築界の取り組みはどの世界のプロフェッショナルにも通じる普遍的内容を持つはず。だからこそ、今回の建築士法改正の本質に沿って、産学にまたがる建築のプロフェッショナルが連携し、建築界のブランディング戦略に取り組むことも必要である。

佐野吉彦

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。