建築から学ぶこと

2013/01/09

No. 357

社会とともに宇宙技術は育つ

正月の新聞に<新興国に小型衛星を製造して打ち上げるビジネスを官民協力して推進>とあった(日経1/4)。日本の宇宙技術は高いレベルにあったものの、ずっと平和利用原則を崩してこなかった。しかし、2009年の「宇宙基本法」成立以降は、国際展開の潮目が変わることとなる。これからは欧米中印らと伍してのビジネスモードに入ってゆくであろう。

宇宙技術は、ロケット技術や衛星そのものの技術など、多面的な要素が組み合わさってできている。それとともに、国によって宇宙技術開発の経過と到達目標に、多くのバリエーションがあるようだ。それを知ったのは「宇宙開発と国際政治」(鈴木一人著、岩波書店。2012年サントリー学芸賞受賞)を通してである。著者は、費用のかかる宇宙開発の狙いには<ハードパワー>・<ソフトパワー>・<社会インフラ>・<公共事業>があると位置づけ、どの国(地域)がどの性格を宿し、それがどう変化したかを明らかにする。

たとえば、冷戦下での米ソの宇宙を見るスタンスは軍事パフォーマンスから始まり、次第に共存の道をたどりながら<社会インフラ>を指向することになる。欧州が目指すところは当初から<社会インフラ>であったが、インドはさらにそれが明瞭である。当初から自国の安全保障と国土開発にターゲットを絞ったことから、他国土の監視を前提としていない。そのことが<途上国の身の丈にあった宇宙技術におけるモデル>となった。振り返ってみれば米国は技術の先端をずっと走っていたに違いないが、軍事の事情から技術公開が制限されていて、そのために各国(地域)は多様な発展をすることにつながったとされる。それをケアするかのように、各国の主張を調停するための協定も時とともに整っていった。

著者は、宇宙技術・システムはいまや「コモディティ化」してきている、と述べる。国の威信をかけた開発から気象観測や災害情報などの民生利用のための「商品」開発へ。めざましい変化・変転が50年ほどの間にあったのだ。保有技術の原点・変遷・特性を点検するところから、それがどのように広汎に活用できるかを追求するところまで。この本を読みながら、建築技術の発展について考えをめぐらせた。

佐野吉彦

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