建築から学ぶこと

2012/04/18

No. 322

その節目から伝わるメッセージ

この4月の上旬、さまざまな法人の節目に立ち会う機会があった。ある企業の創立60周年式典、別の企業の90周年式典。さらに、創業者の孫の結婚式、というケースにも招待を受けた。このなかには、昨年実施すべきところを大震災で年度を遅らせたものもあったようで、4月上旬に集中することになったのである。いずれの場合も創業者はこの場にはいない。しかし、こうしたセレモニーがあること自体、経営者の世代交代が無事に進んでいる証拠であり、当代の経営に対する自負も伝わってくる。

それぞれの社史に触れてみれば、創業者の明瞭な意思がこの道程の始まりにあったことがわかる。90年前は大正、60年前なら戦後という創業のタイミングも、企業の個性やテーマを決める大きな要因となっている。それはすでに企業の創業理念として固定されており、現経営者の戦略は、理念に準拠しつつも自由闊達に社業を伸ばしてきたことも理解できる。おそらく、優秀な創業者が健在であるかぎり、企業のゼロマイル標識はどうしても動き続けることになるのではないか。経営のバトンを円満に渡し切ることで、歴史が確実にステップを刻んでゆくように思われる。

ところで、先日「建築家・菊竹清訓さん 追悼の集い(+偲ぶ会)」(大隈講堂ほか)に出かけた。そこでは弟子を含む何人かがスピーカーとして登壇し、それぞれ表現の異なる菊竹観が語られた。それは菊竹さんの多面的な活躍を示すものであり、故人が発したメッセージの広がりようをじつに興味深く聴くことができた。この日は自身のマニフェストとも言える自邸「スカイハウス」(1958)がクローズアップされていたが、菊竹さんはすでにその「創業理念」からずいぶん遠くへ旅をしたと思う。個性的な弟子たちを見ると、逸材たちは師がまだ健在のあいだにもすでに成層圏を越えてしまっているのだから、指導者としてはとても個性的な役割を果たしている。

佐野吉彦

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