建築から学ぶこと

2007/04/04

No. 77

見たことがないようで、見たことのあるもの

3月末、東京ミッドタウンがオープンした。商業ゾーンを歩いていると、六本木ヒルズにあって一度閉店していた旧知の店を発見したので、声をかけてみた。すると、六本木に帰ってきました!と元気な声が返ってきたので、一瞬とまどった。そうか、ここも六本木だというわけか。六本木ヒルズとは指呼の距離にあるが、ゾーンとしてはきっぱりと切れている。最寄駅が同じであるだけである。

両ビッグプロジェクトは、開発事業主体のキャラクター、六本木ヒルズのときから技術的進展があることなど、相違点を見出すことは可能だが、オフィスにホテル、商業にミュージアムと、メニューは似通っている。また、ファイナンスの手法を練り上げたものであることなど、プロジェクトへの取り組み方も近いものがある。魅力的に完結した商品が都心にまたひとつ姿をあらわした、というわけである。

さていったい、東京にはこういう開発が求められているのだろうか。ここに、多様性であふれる東京をバーチャルな感覚で利用してゆくのか、東京に多元的なコミュニティをもう一度回復する努力をするのか、という議論がある。六本木の2つの小宇宙とも、前者の側にあると言えるが、かたち自体はそう前代未聞のものでもない。ここでは、強いブランド力を持つデザインが招請される。カタチはプロジェクトを遂行する手段として、的確にコーディネートされたものになる。多元的な味わいさえ、うまく醸し出されている。

それにしても、近年の東京はこうした巨大さを実現するノウハウに練達したものだ。プロジェクトに関わったスタッフは別の場所であらたな価値創出に携わるのだろう。バーチャルの側の人間がコミュニティ回復に関わることだってある。多様なカタチが多様な東京をつくるのではなく、人の多様で器用な能力が多様な東京をつくっている。

佐野吉彦

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