建築から学ぶこと

2021/09/29

No. 788

オーケストラを活かす知恵

日本テレマン協会は大阪を主たる活動地域とするクラシック演奏団体で、室内(小編成)オーケストラと合唱団を擁して、1963年から延原武春さんが率いて活動を続けている。主としてバッハが活動した前後のドイツ音楽が主領域ということになるだろうか。もちろんその名にある作曲家テレマンはいつもレパートリーのコアにあるが、この作曲家にあるちょっとした創意工夫や諧謔の味もベースとして意識している。譜面は同じでも、決してその<なぞり>にはならないのだ。それが可能であるのは、ひとりひとりのプレイヤーが普段からクラシカル楽器やモダン楽器などさまざまな楽器と奏法で曲を弾き分けているからであろう。そこからいつも鮮度の高い響きと驚きが生み出されているのである。

バイオリンで言えば、楽器の形状は似ていても弓の持ち方も音量も異なり、アプローチは必然的に変えなくてはならない。その姿勢によって、たとえば彼らがベートーヴェンの弦楽四重奏曲に切り込むときは、彼らにしかない生きのいい響きが聴けるという次第である。一方で、彼らが長年続けている教会音楽での壮麗な響きを実現するには、当然アンサンブルの力が遺憾なく発揮されるが、ここでも個の能力が大いに活かされている。弦や声だけでなく、ビートのきいたパーカッションや明晰なフルートなどの腕が揃うから、長大な物語を飽きさせることなく聴かせることができる。日本テレマン協会の存在感はこういう自発性に由来している。

さて、大編成のオーケストラを基本形とする団体は、こうした小編成団体とはアプローチに違いがある。大編成では指揮者の力量が結果を左右するし、チケットセールスを勘案してプログラムを選択する必要もあるので、プレイヤーの個性表出は意外に簡単ではない。それを乗り越えるには、編成のダウンサイジング企画や、プレイヤーの力が発揮できる曲の選択など、工夫が必要となる。それができれば大編成の多様な人材が活かせるだろう。そう考えてゆくと、オーケストラを活かす方法論は組織論と似ているかもしれない。

佐野吉彦

日本テレマン協会演奏会の拠点の一つ、大阪市中央公会堂

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