建築から学ぶこと

2012/04/04

No. 320

その一貫性が伝え、残したものとは

真鍋恒博・東京理科大学教授は、在任39年のあいだに建築構法計画学を究め/指導を続け、定年を迎えた。その道筋は、多様なレベルの建築計画手法を位置づけ、体系化することを目指していた。そこには、建築部位とそのはたらきに対する変わらぬこだわりと敬意があり、技術の広がりを概括して捉えることへの執念があった。並行して取り組んださまざまな建築部品や材料の変遷を掘り下げる試みは、技術史の業績としても評価に値するものである。

かくして、真鍋教授は建築分野において広い守備範囲を持つことになった。特記すべきなのは、積極的には設計活動に関わらなかったことで、創造神のような眼差しを獲得しながら、自らが神になろうとはしない見識があったと思う。フィールドワークにも関心がありながら、あいまいな言語/気まぐれな考察によって事象を切り取ることはしなかった。それにしても、真鍋教授の述懐のなかにある<現代は、建築設計者が可動間仕切やアルミ押出材の断面などに関与しなくても設計が可能になった。しかしディテールの成り立ちの原理は建築を学ぶ者すべてが理解しておくべき素養である>という指摘は正鵠を射たものである。正統的な建築観ではないだろうか。その視点を有した者は、今後も設計・施工の質を確実に支え続けることになるであろう。

メカニズムへの好奇心から始まった真鍋教授の道筋だったが、いま振り返ってみると、私が研究室に在籍した3年間は、30代前半の少壮の助教授が理論構築や指導方法の「型」に確信が持った局面であった。そのせいだったのか、私にはその型とまともに向きあいながら、その反撥心も感じたりもした。私の学生生活の終盤はそのような混淆の空気のなかにあり、それを抜けたあとに私自身の「型」が生まれてきたと思う。結局のところ、真鍋教授とはずっと縁が切れずに続いていて、歳を重ねて変わらぬ青臭さまで共有してしまっている。私はこの3月24日の真鍋教授退任記念イヴェント<講演とパーティ>の企画と運営にかかわったことで、自分のゼロ標識付近を再び探訪することになった。

佐野吉彦

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