建築から学ぶこと

2023/09/06

No. 883

山並と山裾、そこにある揺るぎなさ

甲州北西部から信州につながってゆくエリアは、自分にとっていつも懐かしい。20代には八ヶ岳や甲斐駒ヶ岳、北アルプスの山稜目指して足しげく登り詰めた。その後、マラソンのレースでも、音楽祭やアートフェスティバルでも通っている。もちろん、仕事で多様な現場に向かいもし、こうした風景にいろいろな建築のかたちを添える仕事もした。そのなかの折々の記憶を、車窓から眺めていると思い起したりする。東京や名古屋から在来線でアクセスするなら、スピードは上がってもほぼ風景が変わっていないのがうれしい。
じつは学生時代以降には中央道が敷設されたり、新幹線が東京から長野・金沢を経て間もなく敦賀に達したりするなど交通インフラの充実はある。やがてリニア新幹線が開通するとさらに異なるアクセスが可能になるのだろう。それでもこのエリアの風景には、今ある大きな自然要素を通じて、ずっと揺るぎない感触が残ってゆく予感がする。
そういう次第で私はこの地に恋い焦がれ続けている。過日、新宿から松本へ行った帰り道に久しぶりに清里に立ち寄ってみた。ここも懐かしい場所だった。清里では、1977年にスタートした大きな森/庭である「萌木の村」の先見性と質の高さ、このところの充実ぶりが注目を集めている。地域に育った船木上次氏(1949-)は、当地開拓の父であるポール・ラッシュ氏(1897-1979)の理念を下敷きに、地域の生態系を活かしながら根気よく手を入れ、自然な印象を与えるランドスケープを文化発信の基盤としても育ててきた。それは関わりあう人には優れた学びの場ともなっている。すなわち、「萌木の村」整備を契機として、特色ある地域生成を積極的に担ってゆく人材の育成をも目指しているように感じられる。清里を含めて、このエリアの揺るぎなさとは、自然だけでなく、それを活かす「人」の揺るぎなさなのではないか。

佐野吉彦

この地に育つ植生とは。粘り強さと的確さ。

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