建築から学ぶこと

2019/11/20

No. 697

脱皮する若者たちー上海にて

上海での短い滞在は有意義だった。アメリカ建築家協会のインターナショナル・リージョン(AIA-IR)の大会で、中国在住のいろいろな建築家のプレゼンテーションに接することができたのである。ベテランたちが語る、中国の長い歴史や、改革開放以後のダイナミズムをめぐる言説にはとても説得力がある。
一方で、30代の建築家たちの言葉は鮮やかで眩しい。もっとも最初に切り出すそれぞれの建築論はやや生硬であり、なぜそれを軸にするに至ったかがわからないところがある。それはもしかしたら仮置きの戦略かもしれない。続けて4、5作品が紹介されるが、ひとつひとつの仕事を通じてのステップアップがはっきりと示される。初期の小プロジェクトにはデリケートで内向的な作家性があったとしても、次第に携わる規模を拡げるに従って、偏狭さからどんどん脱皮し魅力を増してゆくのである。作品の整合性などにいくぶん課題が残っているけれども、これからの成長で十分取り返してゆけるだろう。それほどのたくましさが感じられる。エネルギッシュな中国の都会は多様な光線を放射し、新たなチャンスを生み出しているのだが、そこで地に足を踏ん張る彼らの姿はなかなか頼もしい。その過程で彼らはあらたな建築論を紡ぎだすだろう。まさに、プロジェクトがプロとしての人格を育てる状況である。
同じように、これから伸びてゆこうとする国には若手の成長物語がたくさん現われる。中国はすでに成熟した作品を期待されるステージに入ったが、どの国においても、建築ジャーナリズムや顕彰制度がプロをうまく支えることが出来るなら、建築の質も想像力もさらに高まるだろう。今回プレゼンテーションをしたひとりが、建築は人々の活動を支える存在である、と語っていたな。刺激のある週末だった。

佐野吉彦

上海の諸相2019

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