建築から学ぶこと

2010/02/17

No. 217

人と緑がかかわりあうところ

シンガポール政府が掲げるキーフレーズは、Garden Cityから今、City in the gardenになっている。そのことを涌井史郎さん(ランドスケープアーキテクト)が講演で紹介していた(2月8日)。シンガポールの環境政策はThe Sustainable Development Blueprintのなかに環境教育や官民連携の必要などが述べられているが、高層ビルの緑化誘導、緑と水の確保に言及しているのがこの国らしい。この国では、2030年までに公園を1000人あたり0.8haにするという目標が示され、公園を繋ぐ緑道の長さを100kmから360kmにして公園を使いやすくする、という目標が掲げられる。加えて、2030年までに900haの貯水池と100kmの水路を整備するとあるのは、まさしくシンガポールの生存戦略である。<公園の中の都市>という概念は、機能性の高い都市国家であり続けるための現実的政策として用いられる。見た目の美しさや低炭素化に留まるものではないのである。

シンガポールに限らず、緑の維持は都市活動の継続にとって有効に働く。それはしかし、国家のリーダーシップだけでは定着しえないであろう。先日、西宮市にある上ヶ原と呼ばれる台地にある梅の名所・甲東梅林を訪ねたときに、興味深い説明板を読んだ。関西学院大学のキャンパスを含むこの一帯はかつて芝川又右衛門が果樹園を育てたエリアで、その一部の梅林はエリア内の甲陵中学校の敷地で育てられたという。その後現在地に移植されてしばらく生徒が世話を続けたあと、現在のような公民館敷地の中の梅林となった。これは人の手がかけられてきたからこそ、保たれた緑と言うべきだろう。先ほどとは話が逆で、人の活動が維持されれば、緑は継続してゆくのである。いずれにしても、そこにあるのは都市と緑とのあいだに自然な関係があってこそ成り立つ話である。

佐野吉彦

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