建築から学ぶこと

2020/03/18

No. 713

働きかけること―吉松さんの言葉に学ぶ

今回の感染症は世界的な広がりを見せている。当面の日本は13日に国会で可決した特別措置法とともに対処が続く。やがて終息すれば、こうした事案に日常からどう備えるかが重要となるだろう。建築の専門家が進んで取り組み、また様々な分野の専門家とともに掘り下げ、働きかけるべきテーマである(これは第711回でも述べた)。それらは政治が正しく判断するための基盤にもなる。
そもそも解きにくい事象と格闘することは専門家が自らを鍛えることにつながる。東海大学で教鞭を取ってきた吉松秀樹さんなら、その意味を若い世代に向けて「建築は社会である」あるいは「都市または建築の境界を探せ」といったメッセージに乗せて伝えるだろう。あるいは「問題を発見することが、自ずと分析につながる」と添えながら。
これらの言葉は「手と足で考えるー吉松秀樹の言葉」(*)に収められている。20年にわたる教師としての箴言が丁寧に掬い取られている素敵な本(2冊構成)である。もちろん装丁も美しい。単なる名言収集ではなく、教え子が、とくに記憶している言葉をどう受け止め、どう動いたかをそれぞれが記している編集は面白い。吉松さんによる「たとえ設計の道に行かなくても設計のプロセスは他のことにも役立つ」という明瞭な言葉はまさに本質を突いたものである。同時に、教え子それぞれの反応を促す上手な働きかけと言えるだろう。そこでのやりとりを通じて、吉松さんがひとりひとりと向きあっている姿を感じ取ることができる。それは教授が後進に教えを説くというよりも、同じ建築の道を目指す同志に力強いエールを送ろうとする姿勢である。
個人的に吉松さんとの縁は長いが、その誠実さは、初めて会った30年ほど前と変わらない。それにしても本にある「僕の大学教授としての作品集は君たちのポートフォリオ」というセリフは格好良すぎる。また、「人生最後にはうまくいくようにできている だから大丈夫」という言葉の何とあたたかく力強いことか。建築という仕事は困難を乗り越えて明るい未来を描くためにあるのだ。

 

* 発行:「手と足で考える」出版実行委員会、販売:フリックスタジオ

佐野吉彦

すがすがしい午後のため本。

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