建築から学ぶこと

2006/03/22

No. 26

大学と地域 – 地域は知の培養器 –

政府の地域再生本部が最近、「地域の知の拠点再生プログラム」を策定した。ここには「我が国の活力の源泉である地域を再生させる上では、地域の人材・知識が集積する知の拠点である大学等と連携した地域づくりを進めていくことが重要である」と記されている。総合科学技術会議でも、「地域の特色を生かした強みを持つクラスターを育成する」ことが科学技術の充実に寄与すると捉えており、大学をはじめとする教育機関が地域のなかで果たす役割が注目を浴びている。

大学の経営にとっては、自治体や地元有力企業と連携することはメリットがある。自治体から見れば、自身がカバーできない部分を大学の持つ知的資源に委ねることで、サービスの厚みを増す。双方のやる気次第で好ましい結果をもたらすだろう。

一方、長い眼で見て考えるべきなのは、卒業した学生がその地域に定着できるかどうかである。刺激のない地方都市・雇用のニーズが少ない地方都市に意欲ある若者が根を下ろすはずがない。となると、就職活動が始まるまでの3年(昨今はこれより短い)のあいだに、地域と学生とを強い絆で結ぶための工夫をすべきではないか。建築系学科ならば、地域学習・地域に入り込んでの実習などを、地域の人たちの協力を得て行なう。そのまちの都市問題や景観にかかわるビジョンを自治体と協働してつくることも奨めたい。町工場の多い地域は概してフレンドリーだから、経営学部などの学生が一緒になって地域の将来を構想するのも良いだろう。

さらに言えば、アルバイト・実務研修のような機会は、実務を前にしたお見合い・テストランとして考えると良い。建築の学生が頭もしくは身体を使うアルバイトを通して、自分の適性を発見できる。この場合、地域は学生のための培養器だが、培養器自身が良い人材確保に積極的に動いても良いのである。

佐野吉彦

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