建築から学ぶこと

2014/01/29

No. 410

オープンソース・オープンシステムの可能性

阪神淡路大震災の死者6434名の大多数は家屋倒壊による圧死であった。その中で件数は多くはないが、34名を呑み込んだ西宮市仁川百合野町の地滑り被害はよく記憶されている。今は安全に復旧した斜面の下には「仁川百合野町地すべり資料館」があって、ここで斜面の挙動が日々自動計測されている。ここにある展示コーナーで興味深いのが震災前の緑に覆われた斜面の写真で、動かなかったゾーンに比べ、滑落したゾーンの緑の成長が遅れていたことが分る。どうやらずいぶん前、斜面の上部にある浄水場の工事で捨てた残土の上に育った若い緑らしい。その土の層が滑ったわけである。

ここでの教訓は、こうした土地の来歴を共有することの重要さである。今は地滑りや水害など、誰かが日常の風景の中に潜むリスクに気づいて共通のデータベースに取り込めば、地域の安全は格段に向上するのではないか。今導入が進みつつあるオープンガバメントなどの地域データベース、災害情報マップといった、一般人が作成に加わるオープンシステムは、都市計画や地域再生、環境・エネルギーマネジメント、そして透明な政治にも大いに有効なものである。この取り組みについて、ドミニク・チェン氏は<オープンソース・コミュニティにおいて有名な、「監視する人間が増えるほど、問題(バグ)解決が容易になる」というリナックスの法律と通底する>と記している(*)。データは、多くの手が直接かかわることによって、より信頼感を高めるということである。

多様なデータの書き込み、ネットワークの賢い使いこなしによって、社会、地域、組織を生き生きとしたものに変えてゆくことができる。<文化の核心にある本質がインターネットによって変わったというのではなく、インターネット以前においては把握することの難しかった文化の力学をより克明に可視化しつつある>ものなのだ、とチェン氏はさらに述べている(*)。オープンなシステムに期待したい。

 

「フリーカルチャーをつくるためのガイドブック」(フィルムアート社)より。

佐野吉彦

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