建築から学ぶこと

2007/12/05

No. 110

法令を発意する

福田康夫首相は就任前に「200年住宅」という提言のリーダーシップをとっていた。ねらうところは長寿命住宅の普及整備で、国の政策として推進される。もっともぴたり200年ではなく、それくらい長期的な視点と手順で、という意味であるようだ。本年施行された改正建築基準法が目指すものとこの政策が滑らかにつながるか、これで安定的な景観が形成できるかなど、注視するつもりだ。

それにしても政治家が建築に(ポジティブな)関心を持つことはあまりないこと。それには期待したいが、首相の役割はぜひこの段階あたりまでとしておいてほしい。私は政治のトップが建築論議、とりわけ美醜の判断に加わらないほうが良いと考える。トップは、長くその地位にとどまることはできないのだから、その任期のあいだにハコに過剰に関心を持つことより、時代が必要としているコンセプトを適切に示す、言葉の力を大事にする存在であってほしい。正しい建築を生み出すために必要な法令については、現場を知る民の側が積極的に発意することが望ましいと思うのだ。

その意味で、片岡安(第109回で紹介)の行動力には学ぶべきものがあった。彼は在野の「多忙な建築家の視点」に立って明治の都市事情の改良を目指し、新たな法令の必要性を訴えた。このころ、すなわち大正時代の初め、建築に関する法令は明治21年制定の「東京市区改正条例」しか存在していない。しかも東京だけである。そこで片岡は後藤新平らを巻き込みながら努力を積み重ね、特定地域に留まらない都市計画法と市街地建築物法の誕生(大正8年)を導き出した。ここまでの道程はめざましく、模範とすべきものがある。

これらの法令が発展したかたちの戦後施行の建築基準法は、最低限の基準を定めることを主眼としていて、取り締まるためのものではない。日本における自由な建築活動はこうして保証されてきたのである。これこそまさしく片岡が願ったことだが、直面する課題に対してはどうなのか。昨今の動向を見る限り、在野の専門家の熱意はおおいに物足りない。

佐野吉彦

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