2011/04/20
No. 275
震災直後からの私は、事態に冷静であろうと努めてきた。それは身の回りを動揺させないためにも必要と考えたのだけれど、気の持ちようとしてはなかなか負荷のかかることであった。それは前置きとして、これからは冷静さ以上に新しい取り組みに向かうべき情熱も重要な時期であるとも言える。本当に日本が復興を目指すなら、これまでの前例にこだわらない制度設計、技術の適用といったところでの模索があってよい。外交で言えば2国間関係などにおいて、災害という共通のテーマを得たことによって対話が充実する契機ではないか。多くの面で、震災前にあったこの国の膠着状態が平常のルールで打開できなかったことを想起すると、いろいろ思うところがある。
さて、3月公演が開催できなかったコンサートシリーズ「平河町ミュージックス」が再開し、稲野珠緒さんをはじめとする4人の打楽器奏者とギターの辻邦博さんが登場した(4月8日)。彼女/彼らの演奏を聴きながら、日常の中に音楽があり、音楽の中に日常があるというあたりまえの事実を味わっていた。その一方でプレイヤーたちは、さまざまな家具が置かれる空間「ロゴバ」の一見日常的に見える風景とさらりと同居するように見せかけながら、眼の前の机をステージに貌を転じさせ、階段を天に向って延びる梯子と見立て、床に置かれたキリムが緊張感をはらんで輝く場に変容させるなど試みている。その日はかなりの非日常の刺激を経験していたと言えるだろう。
そもそも日常とは非日常が連続したものであったはずで、われわれは普段忘れてしまっているそのことを、この日の「非日常的な試み」は際立たせた。音楽が伝えようとするメッセージは二枚腰で、なかなか重みがある。震災後の1ヶ月、われわれのこれまでの凡庸な経験と思考は、重要な挑戦を受けてきた。非日常にひきずられながら、日常と向きあいながら生きるとは、実に興味深いものであろう。