建築から学ぶこと

2017/01/25

No. 557

専門家を成長させる機会とは

いろいろな分野の専門家には国家資格が設けられている。建築士は昭和25年に建築士法で、弁護士は昭和24年に弁護士法で、医師は昭和23年に医師法によって定義がなされた。それらの法律には取得のための要件と、独占できる業務などが明示されている。国会で定めた以上、こうした資格取得者には、社会に対しての責任が期待されている。ではいったい、どのような責任の果たし方になるのだろうか?現実には、個々の事案によって、社会環境や時代背景によってその任務にバリエーションが生じているだろう。ゆえに専門家は、どのような局面で身につけた能力を善用するかについて、仕事を通じて、あるいは社会とかかわりあいながら考えを深め続け、チューンナップすることになる。
そうして、専門家は基礎的な技術力の更新だけでなく、倫理感、社会問題への意識といった点の、鋭敏なセンスを磨いてゆく。そこに個人の自発性がなければ、国家資格はペーパードライバーに留まる(建築士定期講習の受講は最低限である)。たとえば、専門家がまちづくりや災害支援など、さまざまな社会活動にボランティア的に参加する機会は能力開発として有用である。こうした場面での、他の専門家が持ちえない知見の提供(これを「プロボノ」という。「公共善のために」を意味するpro bono publicoの略)は、自らの専門性の可能性と限界を認識できる格好の機会となるからだ。言葉を失うような場面にも出会うのもいいだろう。
それは、CSRを標榜する企業が、社員による社会貢献を奨励しながら企業価値を向上させる行動とは出発点が異なると考える。本来、専門性に由来する無私の行為は見返りの前提はない(実費が支払われることはあるが)。むしろ個に広がりと深みを与えるために自己投資をするものと捉えるべきである。

佐野吉彦

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