建築から学ぶこと

2023/06/14

No. 872

東の背骨、西の眼差し

先ごろのニューヨークは、カナダで起こった山火事の煙が数日にわたって滞留し、外出の制限がかかった。これは稀な例だったが、ニューヨークはもともと豪雨や豪雪の困難に向きあってきたし、かつてのような犯罪、感染症、そして9.11の克服のなかで都市の政策もリスクマネジメントも鍛えられている。一方、気候条件がずっと穏やかな西海岸のサンフランシスコにも同様の歩みがある。山火事はさらに頻繁だし、1906年には地震と火事で街が壊滅的な被害を受け、その復興の過程で都市住宅の類型が固まった経過がある。大地震は定期的に起こっており、さらに近傍のシリコンバレーが育てる経済のゴーストップは速いことから、都市計画やランドスケープの新機軸が生まれやすいのがこの街である。
さて、渡航手続きがストレスでなくなったので、そのサンフランシスコでの米国建築協会(AIA)大会にゆっくり参加することにした。このところリアルな集まりが再開する動きが本格化したが、この大会運営は徹底的なオンライン活用という新機軸が目立つ。そこら中でスマホとにらめっこである。そして、リスクマネジメントやBIMといった様々なセッションで扱われる内容では、サステナビリティの達成という補助線が明瞭に示されている。それらは感染症の期間にむしろ危機感、切実感が増している感じがある。コンパクトで歩行移動の便が良いサンフランシスコで、それをめぐる議論をしているのも一層の納得感がある。
これまでの大会運営と同じく、人と人の交わりが新たな価値を生み出すとの意思は今回にもあった。再会を喜びあうなかで、人間関係のフラットさが高まっているのは希望が持てたが、そこに建築家の強いリーダーシップと責任感が弱ければ、建築家像はぼやけるだろう。サンフランシスコもニューヨークも、建築家の力なしではサバイバルできなかったはずだから。

佐野吉彦

ヴィンテージトラムが走る街

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