2021/12/15
No. 799
これまでいくつもの団体の運営に関わってきた。歴史を重ねてきた法人ほど、なかなか大きな流れを変えにくいところがあるし、行政から委任される業務は安定財源でもあるから、そこは優先しなければならない。団体の空気が保守的なのはそうしたところにも理由がある。だが、法人を取り巻く情勢が安定的であるはずもないので、私はできるだけ新機軸に取り組むことを心がけてきた。そこでの内部の合意形成は骨が折れるもので、議論の切り抜け方・方向の絞り込み方においてはある程度賢くなったと思う。
そもそも、団体は必ずしても永久に存続させなくてもよいかもしれない。しかし、次の時代に結び目として活用できるのなら、モデルチェンジして生きながらえさせるのも社会的責任であろう。そう考えていたところに次のような記事を見つけた。「人文社会学分野では研究者の海外志向が強まっており、国内学会の存在意義が問われている」というものである(*)。海外学会への参加は国際的な評価につながるものであり、新型コロナウイルス感染症流行以降に活発化したオンラインでの国際大会開催が、学術発表のハードルを下げている可能性がある。この流れは研究者にとっては好機だが、じつは国内学会が論文の質・量両面で体力が奪われる危機でもあるから、モデルチェンジは急務と考える。
記事は、国内学会が「国内での研究トピックの価値や意義を海外にアピールしたり、産学の連携強化を進めて分析データの利用可能性を高めたりすることなどが必要」とまとめている(*)。これはすべての団体に共通するテーマだろうし、若い世代の優秀な層にアピールできる。規模の小さい学会などは、先鞭をつける転機にすればよい。規模の大きな団体は国内志向が強い傾向があるが、もしこれからも旧態依然のままなら、その団体だけでなく、日本自体が世界の動きに乗り遅れている証拠と言えるのではないだろうか。
*「学会、世界で競争不可避に」(恩蔵直人・早稲田大学常任理事、日経2021.11.30)