2015/07/08
No. 481
兵庫県立美術館で、「舟越桂 私の中のスフィンクス」展が開催中である(8/30まで)。少し前の時期の半身の彫像のシリーズから、近年の取り組みである「スフィンクス」のシリーズまで、舟越さんの軌跡を追いながら楽しめる得難い機会だ。2008年の東京都庭園美術館での「夏の邸宅 アール・デコ空間と彫刻、ドローイング、版画」では、旧・浅香宮邸の空間と作品が親密な対話を繰り広げていたのに比べると、これは、大きな空間を使いこなした手応えのある回顧展ということができる。
舟越さんの作品からはまず、人が有する「精神」の強さが伝わってくる。半身像の数々は、どれも凛とした姿をしているのだ。同時に、このところの作品には、人とは本当は弱い存在で、それを支えてくれる、身近あるいは遥かな「何か」とつねに共振していることを語りかけるものが目に付く。その意図をダイレクトに示している作品もあるなかで、スフィンクスたちは多義的な表情で会場に姿を現している。神話のなかのスフィンクスは、いつも謎を掛けながら人を問い直そうとするが、舟越さんの言を借りるなら、そうしたスフィンクスは誰の心の中にもいる。それは、時に厳しい存在でありながら、あなたをいつも護り続けている。すなわち、眼前のスフィンクスは、他者でもあり自己でもあるのだ。時に哀しみを湛え、時にジェンダーを超越したそれらは、想像力の翼を拡げつつ、やがて観る者に静かに寄り添いはじめる。
それにしても、舟越さんの彫琢する手は、鮮やかで精度が高い。そして、60半ばに近づいた舟越さんのなかで、造形の中に宿るメッセージが次第に色濃くなってきている。まだまだ試みと進化は続くであろうが、父・舟越保武氏と同じ精神の深さに、独自の方法を携えながらゆっくりと近づき、成熟を遂げてゆく過程に立ち会えることは何と幸せなことであろうか。